何が自分を救うのだろう
以前、シンガポールで暮らしていました。
住んでいた、シェアハウスがあったのは
「クンセン・ロード」
ガイドブックには必ず掲載される
色鮮やかで、ノスタルジックな建物が並ぶ
有名な通り沿いでした。
クンセンロードは
日本人にとって「ク」の発音が難しく
タクシーに乗る度に、運転手に
「どこだそこは」と聞き返されます。
シェアハウスには、数人の住居者とメイドさん。
そして家のオーナーの
裕福なシンガポール人女性が、暮らしていました。
国民の9割が、公団住宅に住むシンガポール。
ですが家のオーナーが所有するのは、一戸建て。
家賃を渡しに、オーナーの部屋に行く度に
ガラスケースに並ぶ、高級ブランドのバックや
クリスタルのボトルに入ったウィスキーが
こちらを見つめていました。
オーナーは、数10年前に離婚して以降
パートナーを探していて
すでに成人した実の娘さんや、親族を招いては
貴族のような夕食会をよく開いていました。
気まぐれみたいにBMWを買える
裕福な家のオーナーでしたが
ある時「眠れないんだ」と
重度の不眠症を患っていることを何故
自分に話してくれたのかは、思い出せません。
オーナーの部屋にあった
クリスタルのボトルに入ったウィスキーが
富の表現ではなく
不眠の苦痛を、慰めるものだと知った時。
クリスタルのボトルの
ひんやりした美しさを思い出しました。
そんなある時
私が自室で「ゼラニウム 」という
薔薇の香りにも似た、アロマを焚いていると
少し開いた部屋の扉越しに、オーナーがぼんやり
立っていたことがありました。
何か用かと尋ねると
普段の、陽気なオーナーとは異なります。
風がやんだ湖のような、静かなたたずまいで
部屋の扉からこぼれる
ゼラニウムの香りを前に、立ち尽くし
「いい香りだ」と呟いたその声が
彼女のこころの深い部分から
発されているのが、わかりました。
裕福なオーナーだったけれど
彼女の不眠を救うものは、何なのか。
人を救うものとは、何なのかを思います。
そしてこのコロナの状況下で
何が私たちを救うのかも。
これまでの、日々の延長を生きられたら
感じず、考えずに済んだものも
この状況下では否応なく、直面せざるをえない。
今までの生活が
本質的には、自分を救うものではなかったら
異なる道へと問答無用に
押し出される方もいるでしょう。
コロナの後
オーナーの仕事は、生き方はどうなるだろう。
次にやってくる場所は
私たちを救ってくれるだろうか。
この混乱下で、あぶり出された社会の影を
そのままでいさせない何かが
人から睡眠を引き離してしまうほどの苦しみに
差し込む何かがあるといい。
ただ1つ
オーナーを救うのは
クリスタルのボトルに入ったウィスキーじゃない。
オーナーが今後どう生き
探し求めていたパートナーが、いようがいまいが
あの日、部屋の前に立ちつくし
ゼラニウムの香に包まれ
感じていたやすらぎは
ずっと彼女の内側にあり、彼女の生きる道から
失われないことを思います。
「プリーズ ゴートゥー クンセンロード」
「Whaaaaat?」
タクシードライバーと
このやりとりを、5年以上くり返した日本の秋に
シンガポールを離れ、本帰国しました。
日本に戻ると、シンガポール生活の全てが
やたらはっきり見える蜃気楼のように
実態のないものに思えます。
けれど帰国から数ヶ月後、船便で送った荷物が
シンガポールから届きはじめた時
よくわからない涙がこぼれました。
オーナーからもらった、カードケースに
かかとの擦れた、エメラルド色のサンダル
段ボール箱に詰まっていたそれらのリアルは
自分がその地で生きたことを、教えてくれました。
よくリンゴをくれたオーナーに
似顔絵を描いて、渡したことがあります。
リンゴの輪郭の中に
オーナーの顔が埋め込まれている
ふざけた絵ですが、オーナーは気に入って
貴族みたいな親族に、見せて回ったそうです。
プリーズ ゴートゥー クンセンロード
クンセンロードなんて言えなくても
生きていけたさ
どうぞお元気で
最後に、オンライン・カウンセリングコース
「救い」は人によって異なりますが
オンラインコースでは、自分の内側から
自分を救う意識を育んでいきます
こころの内側に、休まることのない思いを抱え
どうそれを、立て直していけばいいのか
わからない方や
やすらぎから、遠かったままでいる気がする方は
自分自身を整理する。自分の思いを見つめる。
そうして次につながる、行動指針を見つけていく
オンライン・カウンセリングコースをどうぞ