大きな喪失体験の後は
こころを硬直させ、視界を狭くさせ
何も見えなくなることが多いです。
オーラソーマには「喪失」に関連する
ボトルがあるのですが、それがこちら
102番ボトル「サミエル」です。
喪失の後の闇夜のように
深みのあるボトルですが
今回は大切だったものを失っても
私たちの内にある、消えないもののお話です。
「火花」のドラマを見た
最近、芥川賞をとった又吉直樹さんの小説
「火花」のドラマ版を観ました。
※以下ネタバレあり
この物語は
駆け出しの若手芸人と、鬼才型の先輩芸人の
2人の芸人の人生の軌道を描いています。
主人公の若手芸人は
芸の独自性を追求したいのですが
独特すぎる世界観では、客はついていけない。
かといって自分の持ち味を
押し殺してまでする芸に、何の意味があるのか。
葛藤しながらも
斬新な芸を貫く、先輩芸人と共に酔い潰れ
笑い倒す日々を過ごしながら
芸人としての道を、切り開こうとします。
「サミエル」のボトルの
上層ディープオリーブは
「こころの中心点」「源」に関連する色です。
そして下層ディープマゼンタは
「大衆意識」に関する色で
この2色は色相環で、正反対に位置する
「補色」の関係にあります。
補色は隣り合わせると、互いの色を引き立てあう
最善の組み合わせになりますが
絵の具で混ぜると灰色になり
互いの色の本質を失う側面を持っています。
このボトルは
「戦い・争い」にも関連しているのですが
「火花」の若手芸人が直面していたのは
このボトルの2色が表す
「自分のこころの中心点」と「大衆意識」
互いに相入れるのが難しい
「補色の戦い」のように思います。
「大衆から淘汰されない為なら
自分のこころを淘汰できるのか?」
花火
「火花」では作中、打ち上げ花火が現れます。
「花火」
暗闇に咲いては枯れていく、火の花。
若手芸人達はなんとか
「自らの火の花を咲かせよう」と
暗闇で戦い続けます。
仕事先では足元を見られるような態度で扱われ
お金には苦労し
業界の付き合いには、慣れることができない。
主人公の芸人は
物語の途中から「生きていくため」と
守りたかった独自の芸風さえ
大衆ウケするよう変えていきますが
主人公のこころには
見えない血が流されていました。
咲くために飛翔し、散っていく花火のように
主人公の若手芸人は静かに散りながら
多くを失っていきます。
102番ボトルは
すぐには色を識別できないほどの
暗く深い色合いが特徴です。
そしてこの暗い色調は、戦いによる喪失の痛みを
表しているのかもしれません。
「一番守りたかったものさえ、失ってしまったら
自分は終わってしまうのか?」
けれど「サミエル」のボトルは
喪失の闇の中にあるものを見るよう指差します。
戦いの後の荒野に立つ若手芸人には
命を削って守ろうとした芸も
それを届けたかった大衆もいません。
全ては花火のように散ってしまった。
それでも
荒野を生きていくための、かすかな火は
自分の内側でまだ息をしている。
「火花」のラストシーンは
花火のような派手さはなくとも
今もなお「自らの火」を灯し生きている
芸人達のやすらかな息遣いを感じさせる
美しい景色で終わります。
オーラソーマのボトルに
オリーブ色がある時はいつでも
「新しい世界」が待っています。
関連記事